ミラ・ムラティはいまも超知能AIの実現を目指している。そして、OpenAIの元最高技術責任者(CTO)であるムラティの考えでは、その実現に人間の知能が欠かせない。
AIが人々の雇用を奪い、少数の大企業の力をさらに強めるのではないかという懸念が高まっている。そんななか、ムラティのスタートアップであるThinking Machines Labは、まったく異なる人工知能(AI)のあり方を示そうとしている。
「いずれ、超知能を備えた機械は実現するでしょう」と、ムラティは『WIRED』に語る。「それでも、よい未来につながる多くの可能性を残すために最も大切なことは、人間の関与をなくさないことだと考えています」
ムラティは、人間を排除するかたちでAIによる自動化を進める必要はないと考えている。ムラティが示すより楽観的なアプローチは、人々がそれぞれ独自の最先端AIモデルを構築し、カスタマイズし、そのモデルと協力しながら目標を達成していくというものだ。
会話の流れを読むAI
Thinking Machines Labは5月中旬、人間がより深く関わるAIのあり方を示す、新しいタイプのAIモデルを先行公開した。同社の「インタラクションモデル」は、カメラとマイクを通じて人とコミュニケーションを取るよう訓練されている。既存のAI音声モードのインターフェイスの多くとは異なり、この新しいモデルは音声を取り込んで文字起こしし、それをチャットボットと同じように処理するために言語モデルへ送っているわけではない。
このインタラクションモデルは、連続的で雑然とした人間のコミュニケーションをそのまま理解することができる。つまり、沈黙や割り込み、声の調子の変化がもつ意味をより正確に把握できるのだ。これにより、相手が発言の意図を補足したり、話題を変えたりしたときにも、その場で柔軟に対応できる。同社はこうした能力を示す複数の動画を披露したが、モデル自体はまだ一般公開されていない。
ムラティのアプローチは、現在の大手AI企業の多くが超知能を追求している方法とは対照的である。OpenAI、Anthropic、グーグルは、テキストによる指示だけでソフトウェアアプリケーション全体をゼロから書くことを含め、ますます複雑な作業をこなす大規模モデルを開発している。こうしたモデルは、人間の助けをほとんど必要としない。
人間がより深く関わるAIの実現を思い描いているスタートアップは、Thinking Machines Labだけではない。Humans&を含むほかの研究組織も、人間との協力を重視するAIシステムの開発を目指している。一部の著名な経済学者からも、AI研究者や企業に対し、人間を置き換えるのではなく、人間の力を引き出すことを重視したシステムの開発を求める声が上がっている。
より個人に合わせたAIへ
ムラティは2024年にOpenAIの最高技術責任者(CTO)の職を退き、複数の著名な開発者とともにThinking Machines Labを共同創業した。これまで同社は、最先端AIを開発するために数十億ドルを調達している。
ただし、Thinking Machines Labがこれまでに公開した製品はひとつだけだ。2025年10月に提供を開始した「Tinker」は、利用者が独自のデータを使って最先端AIモデルを改良できるようにするものだ。現在はAPIとして提供されており、研究者や開発者はこのモデルをオープンソースモデルの微調整に利用できる。
Thinking Machines Labの創業メンバーであり、テキストだけでなく音声や動画も扱うマルチモーダルAIの専門家であるアレクサンダー・キリロフは、同社の新しいインタラクションモデルについて、よりカスタマイズされ、個人に合わせたAIを実現できる可能性もあると語る。
「モデルは、あなたが何をしているのかを絶えず認識し、必要に応じて返答したり、情報を提供したり、情報を探したり、ほかのツールを使ったりできる状態にあります」と、キリロフは語る。「これは、いまあるほかのモデルには実際にはできないことです。会話をする順番は、はるかに知能の低いシステムによって決められています」
これはすべて、より大きなAI構想の一部だと、ムラティは言う。
「これは、人間との協力をまず重視するという、わたしたちの方向性を示すものです」と、ムラティは説明する。「目指しているのは、人々自身の好みや価値観を本当に引き出し、広げられるAIです。実際に利用者の意図を理解し、予測できるようになると考えています」
(Originally published on wired.com, translated by Nozomi Okuma, edited by Mamiko Nakano)
※『WIRED』によるミラ・ムラティの関連記事はこちら。
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